後見監督人制度
最近、認知症のお年寄りが、判断能力の低下につけ込まれて財産をだまし取られるケースが急増している、という報道がありました。長い時間かけて貯めたお金は、ご本人や家族のための大切なものです。
では、このような被害を防ぐためにはどうすればいいのでしょうか。
そこで「成年後見制度」という仕組みが有効になってきます。未成年者は親が保護することになっていて、高額の取引や借金をした場合でも取り消せることになっています。
また、親が何らかの事情で親権者となれない場合は、親権者に代わって家庭裁判所によって後見人が選出され、法律的に親権者の役割を果たします。
これを「未成年者後見制度」と呼んでいます。
しかし、成人であっても判断能力が十分でない人、例えば認知症や精神障害や知的障害がある人を保護する制度を「成年後見制度」と呼びます。
法定後見制度において、保護の程度の軽いものから、「補助」、「保佐」、「後見」という3つに分かれています。成年後見人には、成年被後見人(保護される人)の日常生活に関する行為を除き、すべての法律行為に関して、同意権・取消権・代理権を行使します。
つまり、多額のお金が動く行為は成年後見人が把握して判断して行うことにより、認知症のお年寄りが詐欺被害に遭うことを防げるという訳です。
成年後見人の選任までの流れについて書いてみます。まず、申立人(4親等以内の親族、検察官、市町村長など)が、制度を必要とする人が住んでいる地域の家庭裁判所に申し立てを行います。
「補助」、「保佐」、「後見」それぞれ書類が異なります。
また、最も保護の程度が大きい「後見」に関しては、本人の精神状況について医師などの専門家に鑑定してもらう場合があります。
次に家庭裁判所の調査官により、事実の調査が行われます。
これには申立人、制度を利用する本人、成年後見人の候補者が出席します。
ここでは、本人自身に対して概ね次のような聞き取りが行われます。
本人の略歴、職歴、病歴、生活状況、などを含む現在の状況や収入、資産とその管理状況、申立や後見人(保佐・補助)候補者についての意思確認などです。
また、成年後見人等の候補者に関しても、被後見人との、財産を管理する上で不適切な利害関係がないかどうかや、 後見人候補者等の職業や経歴 、成年後見人等が職務を引き受けてくれるかについての意思確認を調査します。
これらを通して、成年後見人等としての適格性の判断材料を集めるわけです。これらの調査を経て問題なしと判断されると、後見開始の決定がなされます。
といっても、面談前に書類を提出していますので、面談はあくまでも書類を補完する程度のもので、いわゆる面接のような類のものではありません。
成年後見人を選任し、これで一安心、となるのでしょうか。
ところが、最近この制度の根幹を揺るがしかねない問題が増えてきています。
それは、保護するはずの成年後見人による、被後見人の財産の横領事件です。
しかも、これは年を追って増加傾向にあります。
成年後見人には親族が選任されるケースが多いです。
被後見人とも意思の疎通がしやすく、近くに住んでいる場合が多いからです。
しかし、横領事件の9割は親族が成年後見人である場合なのです(なかには弁護士や司法書士といった専門家もあります)。
そこで、成年後見人が職務に怠慢であったり、不正をしていないかを監督する「成年後見人監督制度」があります。
これは申立があったり、家庭裁判所が必要を認めた場合に「成年後見人監督人」を定めることができるというものです。
監督人は、後見人に対していつでも被後見人の財産目録の提出を求めたり、後見事務について調査できます。
いつ調査されるかわからないのであれば、不正も防げるというわけです。
後見人監督は後見人と利害関係のない人物でならなければなりません。
適当な人物がいない場合、家庭裁判所は弁護士・司法書士など法律の専門家を監督人に専任することもあります。