地方に住んでいる母親が心配なため任意後見契約を行いたいというケース【任意後見】
【ご相談者様の状況】
今回のご相談は、当事務所でも法定後見と比較すると、まだまだ少ない任意後見契約に関するご相談でした。今までは年に5件程度でしたが、今年(2017年)は10件近く任意後見契約に関するご相談がありました。段々と相談件数が増えてきている印象です。いわゆる「成年後見」とは法定後見といわれるもので、ご本人(委任者)の判断能力が低下する前に利用するものが「任意後見」となります。
今回の相談者様の母親はまだ判断能力の低下が見られるわけではなく、在宅で一人で生活されていました。しかし、地方で一人で生活しているため、判断能力が低下する前に、任意後見契約を結んでおきたいというご相談でした。法定後見の場合、後見人を誰するかは裁判官が決定することになるため、相談者様である娘様が後見人になれる保証はありません。一方、任意後見の場合には契約で受任者を決めておくので、全く知らない第三者が後見人になることはなく安心です。
「任意後見」という制度はなんとなく分かっているけど、具体的にはよく分かっていない、ということでしたので、まずは制度を理解してもらうことが必要だと感じました。多くの方が「任意後見契約」は漠然としたイメージしか持たれていませんので、全く問題ありません。
【当事務所のサポート内容・結果】
任意後見契約を行うのが2回目ですという方はまずいません。また、任意後見契約は、それに付随する「見守り契約」「財産管理契約」「死後事務委任契約」があるため、各契約の関連性や必要性などが難しいため、十分に時間をとって説明しました。
また、最初は、任意後見契約に縛られず、どのようにしたいのか目的を聴取していきました。「目的」と「手段」を間違えて、「手段」から入ってしまうと、木を見て森を見ずではありませんが、本来の目的を達成できないことがあります。
「見守り契約」「財産管理契約」「任意後見契約」「死後事務委任契約」の4つの契約を締結するとフルセットとなります。もちろん、「任意後見契約」だけでも良いですし、この4つの中から必要に応じてチョイスしていくことになります。それぞれがそいうった契約なのかかなりの時間を掛けて説明しました。
今回は、母親は地方で一人暮らしといえども、まだ70歳だったため「見守り契約」は不要としました。ただし、体力の衰えを感じ始めていたため「財産管理契約」は必要であろうと判断しました。「死後事務委任契約」は、相談者様が子供で推定相続人であるため、また家族内で揉めている事情もなかったため不要と判断しました。そのため、「財産管理契約」と「任意後見契約」の2セットで契約することとしました。
任意後見契約は、ただ単に契約しただけではその効力は生じず、委任者の判断能力が低下し任意後見監督人が選任されてはじめて、その効力が生じることになります。
ということは、母親の判断能力が低下する前、つまり人の判断能力は徐々に低下していくものですが、その徐々に低下している間は、何もすることができということです。そこで、ちょっと最近忘れっぽくなったかなという状況にも対応できるように「財産管理契約」も合わせて行いました。また、足腰が弱り銀行に行くことができないというときに、「財産管理契約」を結んでおけば、その受任者である相談者様が代わりに銀行へ行き、銀行取引を行うことができるというものです。いちいち母親の委任状を用意する必要がありません。
「財産管理契約」と「任意後見契約」を当事者の事情に合わせず、雛形どおりに作成してしまう専門家もいます。依頼者の知識がないことに便乗して、簡単な契約書を作成してしまう専門家もいます。当事者の実情に合わせて作成するため、内容はケースバイケースで、まさしく雛形とおりにはいかないのが難しいところでもあります。
今回の事例は、委任者である母親が東北在住で、受任者である娘様が東京在住でした。母親が東北在住であったため、契約内容を詰めていくのに多少時間が掛かりましたが、最初の相談から4ヶ月程度で当事者が納得した内容に仕上げることができました。
なお、東京の公証役場ではなく、東北の公証役場で公正証書として作成することになったため、現地の公証役場との打ち合わせも十分に行い、無事に公正証書で契約を行うことができました。
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