法定後見と任意後見の違い
「成年後見」という言葉は、だいぶ一般的に認知されてきました。特に60歳以上の方々には自分自身の問題として、あるいはもう少し若い年代の方には、自分たちの親の問題として、見たり聞いたりしていることも多いのではないでしょうか。
といっても、具体的にどういった制度であるかはなかなか知る機会もないし、必要に迫られる局面になって初めて色々調べるという人のほうが多いでしょう。
ここでは、「法定後見と任意後見の違い」について書いていきます。
「法定後見」とは、本人の判断能力が不十分になったことにより、親族(4親等内の親族)が家庭裁判所に対し、後見人選任の申立を行い、家庭裁判所が後見人を選任する制度です。
「任意後見」とは、まだ判断能力が低下していない元気なうちに任意後見人を自らの意思によって選び、その権限の範囲も自分で決定することができる制度です。後見人となる者を家庭裁判所が選ぶのか、自分自身で選ぶのか、またその権限の範囲を自分で決められるのか、決められないのか、似たような言葉ですが、その制度の違いは大きいです。
本人の判断能力が不十分になる【前】であれば、任意後見制度を、【後】であれば法定後見制度を利用することになります。任意後見は自分で後見人を選び権限を与えるわけですから、判断能力がなければそもそも利用することはできません。法定後見は既に認知症などで判断能力が低下してしまった後に利用するもので、一方任意後見は、自分の将来に備えて早めに準備する制度となります。
法定後見の場合、親族が後見人に就任したり、状況によっては専門家が就任したりします。あくまで家庭裁判所が、後見人として相応しい人を後見人に選任し、裁判所がその後見人に不正がないようチェックします。任意後見は、自分が選ぶことができるため、信頼できる人に任せられる安心感があります。しかしながら、そこはリスクとも隣り合わせでもあります。一人暮らしの高齢者に巧みに近づき、任意後見人となって、必要のないリフォームや金融商品の購入、不動産の売買などを行う犯罪行為に巻き込まれる恐れもあります。特に一人暮らしの高齢者は社会との接点が希薄になるため、優しくされると悪人の言葉を容易に信じてしまったり、騙されたりすることがあります。司法書士や弁護士など国家資格者であればそのリスクは相当減少しますし(ゼロにはなりませんが。。)、長年付き合いのある人などその人のことを本当に理解できているという人を任意後見人とすることをお勧めします。実際問題、高齢者の財産を狙うビジネスとして司法書士や弁護士以外の団体が高齢者保護の名目の下、任意後見制度悪用し、財産を侵奪するということが起きています。十分に注意する必要があります。
もう少し詳しく説明すると、任意後見契約を締結しただけでは、その受任者は任意後見人とはなりません。契約時点では、任意後見委任者と任意後見受任者という地位にあります。その後、委任者の判断能力が低下して「任意後見監督人」が家庭裁判所によって選任されてはじめて、任意後見受任者は任意後見人となります。本来であれば、任意後見受任者は、委任者の判断能力が低下した場合速やかに家庭裁判所に任意後見監督人選任の申立を行い、任意後見人となることにより家庭裁判所の監督下に置かれます。しかし、悪意のある任意後見受任者は、委任者の判断能力が低下しても、任意後見監督人選任の申立を行わないため、家庭裁判所の監督下に置かれることはありません。家庭裁判所の監督下に置かれない状況で、判断能力が低下した委任者の財産を奪っていくのです。
法定後見は、裁判所が後見人を選任し監督するため、任意後見に比べたら安心できるのではないでしょうか。