成年被後見人が権利証を紛失しているケース
成年被後見人が権利証を紛失しているケース
親族の方が後見人になっている場合で、被後見人である父が所有する不動産を売却して、今後の療養費に充てていきたい、というのはよくあることだと思います。売却の手続を進めようと不動産会社へ売却の仲介をお願いしに行くと、ほどなく権利書を念のため確認させて下さいと言われます。当然売却には権利証が必要となりますが、重要な書類は父が自分で管理していたため、権利証もどこにしまってあるか分かりません。権利証がなければ不動産を売却することができないのか。はて困った。どうしましょう。。
決して、権利証がなければ不動産を売却することができないわけではありません。権利証に代わる書類あるいは手続きがあります。
【司法書士による本人確認情報】
権利証を紛失している場合、恐らく一番利用されているのが、権利証に代わる「司法書士による本人確認情報」の作成でしょう。不動産の売買の登記を担当する司法書士が、父親の成年後見人である親族について、売主本人の法定代理人であると疑義を生じなかった場合に作成する書類で、権利証の代わりになります。難点としては、本人確認情報作成代として司法書士に報酬を支払う必要があるということです。司法書士報酬としては8~10万円程度です。
【公証人による本人確認】
私が後見人となっている場合に利用するのが、公証人による本人確認というものです。数千円の費用で、公証人が後見人自身ついての本人確認を行ってくれます。「●●成年後見人である新宮信之は、本公証人の面前で、添付書類に署名押印した。本公証人は、印鑑及びこれに係る印鑑登録証明書の提出並びに運転免許証の提示により上記嘱託人の人違いでないことを証明させた。上記のとおり認証する。」といった内容です。私はこれで、登記を担当する司法書士にお願いをしますが、司法書士同士で信用してくれているので、求められたことはありませんが、上記の司法書士による本人確認情報でやらせて下さいといわれる可能性もあります。なぜなら、公証人による本人確認は、免許証のみで行われ、なりすましの可能性を否定できないためです。上記の「司法書士による本人確認情報」は、司法書士が本人に不動産取得の経緯、現況など詳細に聞き取り、さらに固定資産税納税通知書や公共料金の請求書など本人が所有していることの裏付けとなる資料の提示も求めます。したがって、「司法書士による本人確認情報」の場合にはなりすましの可能性はかなりの確率で排除することが可能です(絶対ではありません)。
【居住用不動産の売却のケース】
父親の居住用不動産を売却する場合には、あらかじめ家庭裁判所の許可を得なければなりません。実際は、買主と売買価格まで決まらなければ、許可申立てを行うことができませんが、売買契約前までに許可を得るのが普通です。この場合、家庭裁判所で売却に関して許可が下りているため、被後見人である父親の権利証がなくても、不動産の売却(厳密には残代金の決済)をすることができます。つまり、裁判所が不動産売却の許可決定を出す前提として、成年被後見人の所有物であるという確認がされているからということになります。
色々と書きましたが、費用や時間的な問題もあると思いますので、実際には登記を担当する司法書士と相談しながら、進めていってください。ちなにみ、現在は権利証とはいわずに「登記識別情報」といいます。登記識別情報通知といわれる紙に暗証番号が記載されています。