ご本人が成年後見制度の利用を拒否しているケース
20年近く連絡を取り合っていないお兄様の後見申立に関する無料相談がありました。相談者様とお兄様とは、若いころからそんなに仲の良い関係ではなく、お互いに結婚して別々に生活するようになってからは、特段連絡を取り合うこともなく、ここ20年近くは全く会っていないし連らも取り合っていないという状況でした。お兄様には奥様がいらっしゃいましたが、既に亡くなっていて、子供はいません。
ある日、お兄様の自宅にケアマネとして頻繁に出入りしている方から、相談者様へ連絡がありました。通帳を失くしたり、変な妄想を警察に言ったりする回数が増え、さらに周りの人にどうやらお金を取られているようだとのことでした。
相談者様の自宅電話番号はずっと変わることがなかったため、お兄様がメモしていた電話番号を見て、ケアマネさんが電話をしてきたということです。長年連絡を取り合っていなかったとはいえ兄弟ですし、万一お兄様のお金が無くなって今後の生活費や施設に入所した際の費用を負担しなければならなくなると困るという思いから、当事務所の無料相談にいらっしゃいました。
お兄様は在宅で一人で生活しているものの、認知症のためヘルパーや訪問看護師、配食サービスなどを利用していました。もともと若いころから頑固であったお兄様の性格はより輪をかけたようになっていました。しかし、周りの人にうまく「よいしょ」されると気前が良くなってお金を渡してしまうそうです。預貯金もいくらあるか分からず相談者様は不安がっていました。
お兄様の状況をヒヤリングすると、判断能力は「後見」「保佐」「補助」のうち、少なくても「後見」レベルではないという印象でした。最終的には医師の診断書によってどの類型に当てはまるかを判断することになりますが、恐らく「保佐」または「補助」ではないかという感じでした。
「保佐」「補助」の場合、ご本人であるお兄様の判断能力はまだ残っているわけですから、成年後見制度を利用する際にも、お兄様が納得している必要があります。なお、「後見」類型であれば、ご本人の判断能力はないのでこのような必要はありません。正確にいいますと、民法15条2項により「補助」の場合は、ご本人の同意が必要となります。しかし、実務上では「保佐」「補助」においてご本人の同意が必要となります。
相談者様にこの話をすると、頑固なお兄様が成年後見制度の利用に同意するとは思えない、ということでした。お兄様に知られずに勝手に後見申立を行うことはできないかという質問がありましたが、結論としては勝手に後見申立を行うことはできません。「保佐」「補助」の場合には、裁判所の調査官が、必ずご本人と面談を実施し後見制度利用について意思確認を行います。この面談を省略することはできません。もともと高齢者が後見制度を利用することが多いため、後見制度を詳細に正確に理解できる方の方が少ないということは調査官も十分理解しています。ただし、あからさまに後見制度の利用を拒否されてしまうと調査官としてもどうしようもありません。調査官もかなり大きな文字で書かれた紙芝居風の説明書を準備して、なんとか「いやだ!」とは言わせない工夫をしています。
「はいはい良いよ(よく分からんけど)」「・・・(無言で頷くだけ)」「・・・(終始ニコニコ)」「耳が悪くてあんたが何を言ってるか分からん」「太郎(息子)が言うんだったら良いよ」という反応が多いですかね。中には「全部先生にお願いしているのでお任せします」「是非ともお願いします」という方もいます。これだとスムーズに進みます。
ご本人の判断能力がない「後見」類型であれば後見制度を利用することは可能ですが、相談者様のケースのように、ご本人に判断能力が残っている「保佐」「補助」の場合で、ご本人が反対しているケースではどうしようもないのが現状です。成年後見制度を利用して、財産の保全をしていきたいところですが、詐欺などで財産を失うことがあれば個別に対応していくということしか方法はありません。
当事務所としても、このような場合はご本人の判断能力が「後見」となるまで待ちましょうという、なんともやるせない回答しかできません。あるいは、一度ご本人が拒否をしても、再チャレンジをお願いすると認めてくれることもあります。今日は調子が悪く機嫌が悪いので、別の日に改めて本人調査をお願いしますと、再チャレンジをしても良いかもしれません。いずれにせよ成年後見制度の限界を感じるところです。