ネット上に氾濫する成年後見の怪しい情報
成年後見の仕事をしていると成年後見に関するネット上の記事を見る機会が多くなります。
様々な人たちが、それぞれの立場から好き放題書いているので、事実もあればそうでないことも溢れかえっています。ネット上で知識を仕入れてきた人ほど混乱あるいは誤って理解していることが多いです。
例えば、こんな情報があったりします。
・成年後見の申立を司法書士・弁護士に依頼すると60万円取られることがある。100万円取られることもある。
→これは成年後見の申立費用だけの料金なのでしょうか。それ以外の費用は含まれていないのでしょうか。
こういった件数がどれくらい報告されているのか気になります。成年後見に関する集まりには頻繁に顔を出しますが、このような事例を聞いたことがありません。良い事例も悪い事例も情報として入ってきますが、今までありませんね。
ただし、これが事実であれば問題です。
・成年後見人には親族はなることができない。
→確かに親族が後見人になる割合は3割程度です。3割の人が後見人になっていのにも関わらず、親族は後見人になれないという誤った情報が散見されます。当事務所では、申立書の書き方を工夫することで6割以上の親族が後見人に選任されています。
・成年後見の申立書は誰でも数時間あれば書ける。
→「トイレに水漏れが発生したので専門業者に見てもらうと、ネジの山から1本取り出してきてわずか5分で修理を完了させた。業者は修理代として1万円を請求しました。依頼者はネジ1本留めただけでなぜ1万円も掛かるのかと業者に食って掛かりました。業者はこのネジで修理できると分かる知識・経験としての代金ですと答えました。」
このような聞いたことはないでしょうか。申立書は数時間で書けるという記事を見た瞬間にこれを思い出しました。同時に、かつて遺産分割協議書の案文をかなりの時間を掛けて作成したことがありました。相続人間で紛争にならないように色々検証した結果の案文でした。しかし、依頼者にその案文を見せると、これなら私でもすぐに書けると言ったのです。大変驚きましたが、それに至るまでの経緯を詳細に説明すると平謝り状態でした。
申立書という完成物だけ見ていると、このように「数時間で誰でも書ける!」となるわけです。その申立書に至るまでの経緯が重要になってきて、専門的な知識や経験が活かされるのです。ネジの話ではありませんが、一般の素人の方がこのように思われるのも士業にとって残念なところです。
成年後見に関してネガティブな情報が多くあります。様々な意見の中にネガティブな情報があることは全く問題ありません。ネガティブな意見から成年後見制度が発展していくこともあります。しかし、事実と異なる情報を発信して、それをビジネスにしているのであれば非常に悲しいことです。
くれぐれも、成年後見制度の利用を検討されている皆様は、間違った情報に惑わされることがないように、情報の収集をするようにお気を付けください。
<蛇足>
司法書士の中には無報酬で後見人をやっている人もいます。24時間体制で家族以上に本人を支援している後見人もいます。知り合いの司法書士には、ご飯を一緒に食べて欲しいというお年寄りの要望を聞いて自宅まで行って一緒に食べているという人もいます(これはやりすぎですが)。なんだかいい話はネット上に出てこないんですよね。頑張っている人に限って自分はこれだけ頑張っていますと周りに話さないものです。